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右目


 夜。
 太陽が沈み、月が昇る夜。
 そんな夜に一人の少年が部屋の中を眺めていた。
 小さく薄暗いアパート。
 電気もつけていないそこで、数騎は部屋の中を見回していた。
 クリスを失ってから数日が経過した。
 数騎はとりあえず死なないようにだけ生きていた。
 だが空虚なこころを埋めるものはなく、部屋を見回しながらクリスと暮らした思い出をかみ締めていた。
 幸せであった情景を思い浮かべながら、数騎は部屋を見つめ続ける。
 だがそこにはクリスはいない。
 数騎は泣きたかった。
 だが、涙は枯れ果ててしまった。
 何日も泣き続けたせいで、もはや流れる涙がなくなってしまっていたのだ。
 数騎はゆっくりと、閉じていた右目を開ける。
 そして、その右目に優しく触れた。
 それは失われた右目。
 視力をうしなた眼球は摘出され、数騎の右目は空洞であった。
 その空洞が埋まったのはつい最近だ。
 つい最近、それはクリスが死んだ後。
 数騎は顔を右に向ける。
 そこには月が輝く夜空を見あげることができるガラスの窓。
 そこに数騎の顔が映っていた。
 左には黒瞳、数騎本来の眼球。
 右には義眼、白目のところは普通に白かったが、瞳の色は真紅。
 そう、それはルビーだった。
 クリスであったルビーを、数騎は自分の左目に義眼として埋め込んだ。
 もう二度と二人が離れ離れにならないように、祈りを込めて数騎はルビーを義眼にしたのだ。
 空洞は埋まった。
 今の数騎は一人ではなかった。
「ずっといっしょだ、クリス……」
 ガラスに映るルビーに向かい、そう囁く数騎。
『大好きだよ……』
 その時だ。
 クリスの声が聞こえたような気がした。
 思わずクリスの姿を探す。
 だが、どこにもクリスの姿は見当たらなかった。
 再び窓を見る。
 数騎の右目には、依然として真紅のルビーが移っている。
「そうか、お前はここにいるんだよな……」
 目を閉じて思い出す、あのクリスの可愛らしかった笑顔を。
「オレの……瞼に……」
 閉じた目から涙が溢れ出す。
 枯れ果ててなどいなかった。
 涙はいくらでも流れ落ちる。
 あふれる涙を気にもとめず、数騎は目を閉じ続けていた。
 瞼の裏に浮かんだクリスが、自分に何か話しかけてくれるかもしれなかったからだ。
 クリスが口を開く。
 そして、声が聞こえてきた。
 それは、クリスがありのままに伝えたかった言葉なのだろうと、数騎には思えてならなかった。

第四幕 鋼骨斬手 Steel Bone cut the Hand 完

























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