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トップページ>>パオまるの小説>>魔剣伝承>>第十七羽 十二月への道標
第十七羽 十二月への道標
「以上が、三日前の戦いの報告です」
ソファに座った柴崎は、そう言って話を締めくくった。
午後二時の探偵事務所。
事務所に集まった人間たちに囲まれ、柴崎は戟耶を戦死させた戦いの説明をしていた。
話に参加していたのは柴崎の左右に座る麻夜と薙風、そして対面に座る桂原、歌留多、里村の合計六人だ。
九人もの人間がいたこのこの拠点の人間は、すでに三分の一まで減少していた。
「さきほども言ったとおり戟耶は一般人に被害を出し、さらにそれを加速させようとしました。明らかに職務違反です。生け捕りにしたかったのですが、彼の戦闘能力を考えるなら生け捕りは不可能でした」
「なるほど、柴崎の言うとおりだな」
対面にいる桂原はそう答え、一同を見回す。
「みんな桂原の意見に文句はないか? 戟耶はやりすぎた、それを柴崎が処断した。それだけだそうだ。異議があるなら唱えろ」
誰も異議を唱えなかった。
戟耶のやりすぎる傾向は魔術結社の人間ならみなが知っていた。
いつか誰かに処断されるだえあろう、それをしたのがたまたま柴崎であっただけ。
誰も異論を口にしようとはしなかった。
「じゃあこれで話は終わりだ、解散」
その言葉が口にされると、一同の緊張の糸が一気に緩んだ。
みんな楽な姿勢になり、それとなくおしゃべりを始める。
そんな中、いかつい顔をした柴崎は桂原に尋ねた。
「私に処罰はくだされないのですか?」
「何を言ってる、異端を排除しただけだろう? 処罰されるどころか賞賛されてしかるべきだろうに」
「ですが私が殺したのはこの組織中でも指折りの精鋭」
「表世界の人間を殺して楽しんでる人間は魔術結社に不要だとよ、本部からの返答だ」
面倒そうにそう言うと、桂原は懐から手紙を取り出して柴崎に渡した。
「これは?」
「お前に手紙だそうだ、アルカナムからだ」
言われ、柴崎は手紙を受け取り、封筒から取り出すと早速目を通した。
「これは……」
「書いてあるとおり昇進の知らせだ。三の亡霊を降したんだ、次の三の亡霊はお前以外にいないだろう」
「だが、私は彼を」
「いいから言うなって。それと戟耶の魔剣はお前が使えだとよ。晴れてお前も刃羅飢鬼の魔剣士ってことだな。これからも頑張れよ」
「あの魔剣を、私にですか?」
「そうだ、あの魔剣は使い手を選びすぎる。魔剣士として御三家並みの実力を要求する上に魔術師としてそこそこの力を持っていなくては使いようがない。御三家の人間で魔術をそこそこそこ以上に使える人間は亡霊の中でもお前しかいないだろう?」
「桂原さんは?」
「オレは魔剣士じゃないから刃羅飢鬼は使えん」
あっさりと斬って捨てる桂原。
と、思い出したように笑みを浮かべて見せた。
「とりあえずこれでお前はAクラスの魔剣を二本所持する魔剣士になったわけだ。本部もかなり期待を寄せているぞ」
二本の魔剣、もう一本は魔飢憑緋の事だ。
まだ期間こそ残っているが、薙風は本部に魔術結社を退くための書類を申請済みだ。
魔飢憑緋の引継ぎは魔飢憑緋との相性が悪くなく、力を最大限に発揮でいないだけで暴走しない柴崎が適任と魔術結社が判断し、魔飢憑緋はそのまま柴崎の魔剣となった。
「二刀使いの魔剣士か、なかなかいい響きじゃないか」
「逆だ、響きが最悪だ」
嬉しそうに呟く桂原に、柴崎はため息まじりに答える。
その横で薙風はちょこんと座りながらまじまじとテレビを見つめる。
鋼骨の魔剣士が死亡したことにより、技術を奪おうとたくらんでいたメイザース一派の動きは完全に鎮静化した。
おそらく当分はメイザース一派が動く事は考えられず、薙風が命がけで戦わねばならない日数はもう数えるほどしかない。
薙風は開放されたも当然だった。
命の奪い合いという恐怖から助け出された薙風は、本当に楽しそうにテレビを見つめる。
その横顔がかわいらしくて、柴崎は思わず顔をほころばせた。
「はぁっ!」
二十畳ほどの大きさをもつ病院のリハビリ室。
そこで二階堂は運動をしていた。
もはや完全に傷は治っていた。
が、入院を続けたのにはわけがある。
ここは魔術結社の息のかかった病院だ。
そこで、入院するついでに二階堂はトレーニングを積んでいた。
二度と自分が足でまとうにならないように、最低限の護身術を習得しようとしていたのだ。
最近は魔剣の使い方も少しは覚えてきた。
これで二度と無様な真似はさらさない。
もしかしたら、玉西を助けられるかも知れないと思うと嬉しかった。
と、リハビリ室の扉が開いた。
病院着を着た二階堂以外誰もいないリハビリ室に現れたのは背の高い異人。
それはアルカナムと呼ばれる男だった。
「体の具合はどうかな?」
「もう全然大丈夫ですよ、腕もしっかり動きます。魔剣をコントロールする特訓もばっちりしてます。Dクラスくらいまでだったら起動だけですけどできるようになりました」
「ほぉ、大した上達ぶりだな」
「アルカナムさんの教え方が上手いからですよ、さすがは柴崎の師匠だ。オレみたいな無能力者でも鍛錬しだいで魔剣を使えるんですね」
「君は年を取ってから始めたと言うのに飲み込みが早くて助かる。一番苦労したのは輝光の操り方だったな」
「あ〜、最初は輝光を感じ取ることさえできませんでしたからね」
苦笑して答える二階堂。
そう、二階堂は柴崎には内緒で訓練を続けていた。
腕の治療をしているとき、暇だった二階堂は見舞いに来たアルカナムに師事を願い、魔剣士としてのトレーニングを積み続けた。
実戦経験もなく、使える魔剣も弱いが、二階堂は確実に戦士としての能力を高め始めていた。
「でも、オレは強くなってきました。いつか柴崎と一緒に戦える日が来るかもしれない」
「いや、恐らく来るだろう。私がそうさせてやると約束しよう。柴崎と戦える日が来る事をな」
「ありがとうございます、アルカナムさん」
「時に今日は君が退院する日だったな、プレゼントだ」
言ってアルカナムは小さなカプセルを二階堂に手渡す。
「これは?」
「飲めば君の力が増す薬だ。さぁ、飲むといい」
「ありがとうございます」
笑って礼を言うと、二会堂はその薬を水もなしに飲み込んだ。
「それにしても退院か、嬉しいな。とりあえず探偵事務所ってとこに顔出してみるかな。アルカナムさん、柴崎たちは事務所にいるかな?」
「あぁ、いる。今は任務中だからな」
「玉西も?」
「玉西……そうか。君は聞いていないようだな」
「何かあったんですか?」
心配そうに尋ねる二階堂。
そんな二階堂に、アルカナムは言いにくそうに言った。
「そうだ、あまり嬉しくはないことだ。むしろ不幸なこととも言ってしまえるだろう」
「教えてください、玉西に何があったんですか?」
懇願する二階堂に、アルカナムははっきりと答える。
「死んだよ、戦死した。六月の魔飢憑緋暴走事件のおりにな」
その言葉を聞いた瞬間、体の力を失って二階堂はリハビリ室の柔らかいマットレスに座り込む。
そして次の瞬間、可能な限りの大声で叫んでいた。
自分にとって最愛の女性の名前を。
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