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白昼夢


 夢を見ていた。
 いや、夢を見ている。
 それは何度も見た夢だった。
 公園のベンチに座りながら大切な人を待ち続ける夢。
 何度も見た夢は、いつか辿り着く現実のはずなのに、それは結局訪れることはなかった。
 公園に生えた桜が風に揺れる。
 ピンク色の花びらが舞い散り、それは本当に綺麗な光景だった。
 今日は寒いな、そう思った。
 いつも着ているお気に入りの赤い着物を着ていても少しだけ寒かった。
 上に何かを羽織ってくれば良かったかもしれない。
 思えばいろいろなことがあった気がした。
 あまりにも多くのことがあったので、正直上手く思い出せない。
 それでも思い出せるのはあの人の笑顔。
 知らないうちに片目になってしまい、病的に痩せてしまっていたけど、あの人の笑顔を見るのが心の底から好きだった。
 もう会えないのだろうか。
 おそらく会えないのだろう。
 悲しいことがあったから。
 もう二度と会えなくなってしまったから。
 だって、これは夢だ。
 何度も見た夢。
 でも、一度として夢の続きを見たことはない。
 なら、これはどこにも辿り着かない夢。
 そろそろ夢もお終いだ。
 そんな事を考えながら、目を閉じようとした。
 その時だった。
 後ろから猫の鳴き声が聞こえてきたのだ。
 猫はそのまま私の目の前に回りこむと、ベンチの上に飛び乗り私に近づいてきた。
 頭を撫でてやると、すごく嬉しそうに鳴いた。
 人に慣れているのだろうか。
 茶色い毛並みをしたその猫は、そのまま私の膝の上に乗ると、丸くなって休憩をはじめたのだ。
 私は、そんな猫の背中を優しく撫でてあげた。
 嬉しそうに喉を鳴らす猫。
 その時、気がついた。
 これは今までになかった展開だった。
 いつも夢はあそこで終わるはずなのだ。
 誰も私の所にやってこないで終わるはずなのに……
「あっ……」
 変化はそれだけではなかった。
 白いものが降ってきたのだ。
 顔を上げる。
 わずかに曇りがかった空。
 そして、その空から降ってくる白くて冷たいもの。
 雪だ。
 桜が咲いているというのに、雪が降ってきたのだ。
 それはこの町で起こる面白い現象。
 この町の風物詩と呼ばれているもの。
 柔らかに降る雪と、舞い落ちる桜が混ざり合い、美しい光景を見せながら地面へと落ちていく。
 雪桜と呼ばれる現象だった。
 驚いた。
 こんなことは今までに一度もなかった。
 夢はあそこでいつも終わるはずなのに、今日はこんなにも。
 こんなにも、その先を見せ付けられた。
「そうか……」
 ようやく気がついた。
 神楽は膝に乗る猫を愛おしそうに撫でてやりながら思った。
 夢はあれで終わりではなかったのだ。
 夢には続きがあった。
 まだ終わっていなかったのだ。
 そう、ならきっとそう。
 これは、きっと夢の終わりなんかじゃなくて……





















































魔剣伝承 完


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