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白い花咲く日曜日



「あなた、手紙が届いてるわよ」
 ある早朝、外にある郵便受けの場所から部屋に戻ってくるなり、リベル・レギスがそう声をかけていた。
 リビングで沙耶とオモチャで遊んでいた剣崎は顔をあげて玄関の方を見た。
 靴を脱いで部屋に入ってくるリベル・レギスの手には、茶色の封筒が握られている。
「オレにか、誰からだ?」
「えっと、ジェ・ルージュさんから」
「あいつから?」
 何か嫌な予感がした。
 側までやって来たリベル・レギスから、恐る恐る封筒を受け取る。
 宛名、ジェ・ルージュ。
 あて先、剣崎戟耶様。
 なるほど、確かに自分宛だった。
 剣崎は渋い顔で封筒を開ける。
 そして中身を取り出した。
 そこには何かのチケットが三枚。
 それと白い紙が入っていた。
「なんだこれ?」
 チケットをよく見る。
 全文は英語で書かれており、下にバーコード、右下にドルでお値段が書いてある。
「東京から、ギリシャ? 航空チケットか?」
 訝しみながら航空チケットを見つける剣崎。
 しかも、全部がファーストクラスとか書いてある。
 お値段もそうとうすごいことになっていた。
 と、リベル・レギスが剣崎の肩を叩く。
「手紙のほう、読んでみたら?」
「そうだな」
 答え、剣崎は手紙に目を通す。
 そして、リベル・レギスの方に顔を向けた。
「やれやれ、いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい」
「悪い知らせから」
「ギリシャにオレの力を借りたい人間がいるそうだ。魔皇クラスの術師に呪いをかけられた姉妹だそうだ。何千年も苦しめられている呪いだから、なんとか助けてほしいそうだ」
「でも、戟耶くんって解呪なんてできたっけ?」
「エアがいるだろ」
「あっ」
「エアは具現化を解いて荷物としてギリシャに郵送しろと書いてある。魔術結社を経由すれば刀剣の類でも国外輸送できるとか書いてある」
「う〜ん、法律違反するのね。あんまり乗り気しないわ」
 困ったような顔で言うリベル・レギス。
 しかし、今の生活がジェ・ルージュの資金援助で成り立っている以上、逆らうわけにもいかない。
 剣崎は魔術結社には戻らなかった。
 普通の人間として生きるために、とりあえず大学を卒業して教師になりたいとリベル・レギスに言った。
 リベル・レギスもそれに賛成し、剣崎はまだ学生を続ける事になった。
 今は三月で春休みの最中だったのだ。
 仕事が無いのに子供を育てる必要のある剣崎は、記憶を失う前の金だけで頑張ろうとしたが、貯金はそこまで多くなかった。
 と、そんなときに燕雀が小切手を送りつけてきた。
 書かれた金額は二千万円。
 剣崎は受け取るのを辞退しようとしたが、だったらジェ・ルージュが頼みごとをしたら出来る範囲で助けてやってくれと言ってきた。
 燕雀の貯金はジェ・ルージュからもらった金で溜めたものらしく、燕雀はジェ・ルージュに恩を感じているらしい。
 そんなわけで、剣崎はその頼みを断りようがなかった。
「リーさん、これは仕方ない。頼みを断れるほどオレたちには余裕もないわけだし。いつか働けるようになって、お金を返したら喜んで仕事を断ろう」
「何年先のことになるのかしら」
 リベル・レギスはため息をついた。
 そして、思い出したように口を開く。
「それで、いい知らせって?」
「仕事が終わったら魔術結社の船で別荘の建ててある無人島にご招待してくれるそうだ。別荘には小型ボート、小型飛行機もあるらしい。金がないから、行ってそうにないだろう新婚旅行を楽しんでくれと書いてある」
「それ、本当?」
 リベル・レギスの瞳が輝きだす。
 剣崎は頷いて答えた。
「あぁ、沙耶と三人で楽しんで来いと書いてある。邪魔なら沙耶は別荘の管理人が預かってくれると」
「邪魔じゃないわよ、三人で旅行しましょう。それにしてもギリシャか、海がきれいなんでしょうね」
 目をつぶり情景に思いはせるリベル・レギス。
 そんなリベル・レギスを、剣崎は微笑ましい顔で見つめていた。







「さて、昼食の買出しにでも出かけましょうか」
 楽しそうに言うリベル・レギス。
 手紙を見てから数時間後。
 昼食を作ろうと考えたリベル・レギスだったが、冷蔵庫がからっぽになりかけていることに気付くと、近くのスーパーに買い物に行こうと思い立った。
 化粧をして支度をすると、すぐさま外に出るリベル・レギス。
 剣崎は沙耶を抱きかかえながらリベル・レギスに続いた。
 リベル・レギスは外で、沙耶のためのベビーカーを用意していた。
 剣崎とリベル・レギスと沙耶。
 買い物に行く時、剣崎たちは三人でいることを好んだ。
 誰かに留守番をさせたくない、そんな気持ちがあった。
 それは、少しでも三人一緒にいたいという思いの表れだった。
 リベル・レギスがベビーカーを押し、その隣を剣崎が歩く。
 三人は、商店街に向かって歩き続けた。
 と、剣崎は曲がり角にある家の花壇に白い花が咲いているのに気がついた。
 日が昇る前まで降り続けた雨の滴がいまだに花びらについている。
 それが風に流されて飛ばされた。
 水の滴が、濡れたアスファルトの上に落ちる。
 剣崎は上を見上げた。
 真っ白な雲、そして蒼い空。
 雲があるためにより深く見えるその蒼の中に輝くは太陽の光。
 輝かしい太陽は、冷たい風の吹く大地を優しく照らし暖めてくれている。
 剣崎は顔を戻してリベル・レギスと沙耶を見つめる。
 外を歩くのが嬉しいのか、はしゃぐ沙耶とその様子を愛おしそうに見つめるリベル・レギス。
 微笑みを顔に貼り付けながら、剣崎は二人の横を歩いていた。
 雲と太陽とで彩られた蒼穹の下を歩く三人。
 通りすがりの人間が彼らを見たらどう思うか。
 きっと、微笑ましい幸せな家族だと思うだろう。
 白い花咲く日曜日。
 三人家族は昼食の食材を買い求めるため、スーパーに向かって歩いていくのであった。







退魔皇剣 完


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