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プロローグ


 夜の闇を切り裂くような甲高い金属音が響き渡った。
 幾度と無く響くその音は、周囲に生える木々の葉を震わせるほどの疾風を巻き起こす。
 そこは神社の境内。
 石で出来た道の上に二人の剣士が向かい合い、お互いを殺傷すべく剣撃を繰り出し会う。
 二人は仮面を被っていた。
 一人は平面。
 起伏のないその白い仮面には何かしら呪詛のような文字が刻まれていたが、目の部分に開いた穴の他、空気穴の類すらない。
 穴から見える黒い瞳は、ただただ眼前に立つ剣士を見据え続ける。
 その両腕にはインドで過去に用いられた三本の刃が装着される刀剣、カタールを握り締めている。
 一人は天狗。
 真紅の甲冑を身に纏い、同色の色を放つ金属で作られた刀を構え白き仮面を見据える。
 兜の中から覗く仮面は天狗をモチーフにしており、長い鼻と髭が強烈な威圧感を放っている。
 仮面の奥から見える瞳は白い仮面の剣士と同色の黒だった。
 二人の剣士のにらみ合いは一瞬で終わり、再び剣舞が境内で披露された。
 疾風が吹き荒れ、舞い落ちる葉は振るわれる剣閃によって次々と切り裂かれる。
 その時だった。
 神社の扉が開いた。
 賽銭箱の後ろから姿を現したのはまたも仮面。
 二匹の蛇を象ったその仮面をつけた人物は、手にする杖を見せ付けながら口を開いた。
「今日は退きたまえ、天狗」
 よく通る男の声だった。
「別に君を滅ぼしてしまっても構わないのだが、私も敵を作りたいわけではない」
 そこまで聞くと、天狗は白い仮面の人物から大きく距離をとり、後ろに後退する。
 白い仮面の人物から殺気は消えていた。
 だが、安心するわけではなく、天狗は白い仮面に注意を払いながら蛇の仮面を睨みつける。
「知っているとは思うが、異能者を遮断する結界はすでに発生した。もはやこの儀式が終わるまで異能者はいかなるものであろうともこの町に入ることは出来ない、それこそ退魔皇剣の使い手でもないかぎりね」
 口元に手をやりあごに触ろうとしたが、仮面を被っていることに気付き、蛇仮面の男は手の動きを止める。
「ご存知の通り私はすでに退魔皇だ。君ごときが敵う相手ではない。退きたまえ、私はこの儀式の中で赤の魔術師を敵に回すつもりは無い。もっとも、いかな赤の魔術師と言えど退魔皇剣の相手は荷が重過ぎるとは思うが」
 小さく笑う蛇仮面の男。
 しばらく天狗仮面は直立不動を維持したが、一陣の風が吹いたのを契機にさらに大きく後ろに跳躍。
 そして、瞬く間に神社の境内から外に出ると、異常なまでの速度でもって戦場を離れた。
 天狗の剣士の気配が遠ざかるのを感じると、蛇仮面の男が大きくため息をついた。
「いやはや、面倒なのに目をつけられたものだ」
 白い仮面に話しかける蛇仮面の男。
 白い仮面は答えない。
「とりあえずこれで退魔皇剣との契約を果たしたのは私で一人目。あと七人、契約者が揃うまで私達は様子見といこうか。戦いが始まるまでに戦力をそろえなくては」
 やはり白い仮面は返事をしない。
 それでも蛇仮面の男はさらに言葉を続けた。
「もうすぐ始まるぞ、八振りの退魔皇剣による壮絶な殺しあいが。自身の存在をかけた欲望の宴はもうすぐだ。もちろん、お前にも頑張ってもらう予定だがね」
 そう口にし、蛇仮面の男は白い仮面の人物に歩み寄っていく。
「それでは行こうか、仮面使い。私達に時間が無限にあると思わないことだ」
 そう言って、蛇仮面の男は白い仮面の人物の脇を通り過ぎて神社の出口に向かって歩き出した。
 その背中を見つめながら白い仮面の人物、いや仮面使いも蛇仮面を追って歩き始めた。
 月の夜を歩く二人の仮面の人物。
 それは、この町でこれから舞い踊られる仮面舞踏の始まりにすぎないのであった。





















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