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第五羽 忌まわしき邂逅


 事務所に客が入ってくるのを確認するのに、扉が目に入る位置にいる必要はない。
 扉の上の部分に鈴がついており、扉が開くとそれが鳴る仕組みになっていたからだ。
 そしてその時も鈴の音が事務所への来訪者の訪れを告げた。
「はーい」
 給湯室にいた数騎は、客の対応のために給湯室から出てその男を迎えた。
「なっ」
 立ちすくむ。
 昼下がりの事務所で少々遅めの昼食を終え、まったりとお茶をいれていた数騎はその男の出現に驚きを隠せなかった。
「なんでだよ・・・・・・」
 言葉を紡ぐ。
 その中に混ざるものは負い目か、それともほとばしらんばかりの憎悪か。
「なんでお前がここにいるんだよ!」
 怒鳴り声が事務所の中に響いた。
 何事かとその場にいなかった薙風と桂原が居間から顔を出す。
 事務所の入り口。
 頭上でなる鈴をものともせず、そこに一人の男が立っていた。
 高い身長に鋭い目。
 涼しく活動的な白のTシャツにジーパンという姿のその男は、睨み付ける数騎をものともせず事務所の中に入ってきた。
「向こうの仕事が一段落したのでこちらを訪ねたのだが、迷惑だったかな?」
「いえいえ、そんなことございませんよ」
 事務所の机のそばにあるイスに座っていた麻夜は、イスから立ち上がりながらその男を迎えるとともに数騎に鋭い視線を送る。
「ワトソン、お客さんに失礼よ」
「だってこいつは」
「柴崎司さんでしょう? 一応、あんたより格上なんだから礼儀くらいわきまえなさい」
 ピシャリと言い切られ、数騎は反論の言葉を失う。
「とりあえずお茶でもいれてきなさい、いいわね」
 麻夜の命令に逆らえる数騎ではない。
 ちらちらと柴崎を睨みつけながら、数騎は給湯室へと消えていった。
「さぁ、柴崎さん。こちらへ」
「すまないな」
 一礼してソファに腰掛ける柴崎。
 その隣に居間からやってきた桂原、麻夜の隣には薙風が腰掛けた。
「ところで柴崎、いったい何があったんだ?」
 腰をおろすと同時に桂原が、柴崎の尻に手を回しながら訪ねる。
「いや、こちらで連続殺人事件が起きていると師父から教えられてな。師父の命令でこちらに派遣された」
 柴崎は迫る桂原の魔手を、左手による手刀で叩き落す。
 仕方なしに手を引っ込めると、桂原はつまらなそうな顔をする。
「へぇ、師匠が。まだ証拠すらつかんでないのに迅速な行動だねぇ。でもいいのか? 一ヶ所に集まって待機してなきゃいけないはずのランページ・ファントムの構成員、その四分の一が別行動しちまってよ?」
「その代わり、師父が本部に閉じこもっている。あの人がいればあの部隊の人間は半分近くが不必要だ」
「そりゃ、師父の最大出力は二百だからな。組織のナンバー2ってのは侮れないってわけね」
 納得したふうに桂原は笑顔を浮かべる。
 そこに、薙風が話に入ってきた。
「でもアルカナムが司をこちらによこしたってことは、何かある」
 薙風の言葉に、柴崎は頷いてみせた。
「だろうな、多分この事件。十中八九、裏の人間の仕業だ。三週間で三十人近くの犠牲者を出すのは素人の快楽殺人者にはちと難しすぎるだろう。複数犯、もしくは同じ時期にまったく別口の犯罪者が動いているわけでもなければな」
「そんな偶然ありえないね。これは間違いなく異能者の仕業だ。おそらくどこにも所属してない異能者だろう。
 それも裏の世界の存在すら認識してない素人さんだ。少しでも裏のルールを知ってればこんな馬鹿な真似はしない。少なくとも死体遺棄なんてやり方はな。失踪くらいなら向こうさまだってまだ看過してくれるだろうに。ただの家出とでも思っていただけるかもしれないからな。
 だが、死体が出たらそうはいかない。世間は騒ぐし警察も動く、あまりにも過激にやりすぎたら国が黙ってないぜ、本気だされたらオレたちなんて一発で潰されちまうからな。そのうち国から魔術結社に正式に依頼が入るんじゃないのか? まぁ、オレたちはそれを先んじて行動しているわけだが」
 そう桂原が一気にまくし立てたところで、数騎が給湯室からお茶を持ってきた。
 薙風、麻夜、桂原の順にお茶を並べ、最後に柴崎の目の前に茶を用意した。
「じゃあ、僕はこれで」
 そう言ってその場から立ち去ろうとする数騎。
 そんな数騎の背中に、柴崎が声をかけた。
「この間はすまなかったな」
 その一言に、数騎はゆっくりと振り返る。
「あの時は私も激情に走りすぎた、弁解の余地はないかもしれないが」
「そうでもない、あんたは間違ってないよ。立場が逆なら僕は殺してた。あれじゃ生ぬるいくらいだ」
 それだけ言うと柴崎に興味を失ったのか、数騎は居間へ向かって立ち去っていった。
「激情に走った、なんだそりゃ?」
 事情を知らない桂原が、おもしろおかしそうに尋ねてきた。
「あ、なるほど。ついにお前もこっちに目覚めたか。自分自身の内側でとぐろをまく欲情の波を抑えきれず、あの坊やを襲っちゃったんだな?」
「一緒にするな」
「迷惑」
 柴崎と薙風が順に桂原の言葉を否定する。
 やりこまれた桂原はおもしろくもなさそうに小さく息をついた。
「それで、冗談もけっこうなのですが」
 今まで話に参加していなかった麻夜が、ここにきてようやく口を開く。
「これからどのように活動していくつもりなのでしょうか? 私たちに動くなと言われるからにはそれなりの考えがあってのことと存じますが」
「ああ、そのことか」
 急にまじめな顔になり、桂原は自分の胸に手をあてる。
「オレと柴崎でこの付近の異常を探知する。オレは魔術師だし、柴崎もオレに準ずる魔術師としての能力を保有しています」
「んっと、たしか柴崎さんは仮面使いでしたね」
「そうだ、オレと柴崎のコンビならこのあたりの輝光の乱れを察知するくらい容易い。昨日は来たばかりで動かなかったが、今日から索敵をはじめようと思う。ま、敵がいるかどうかは微妙だが」
「でも、いるかいないかは大切です。いなければよし、いればそれを打倒し、裏の世界の痕跡を抹消する、魔術結社の仕事としては妥当なものであると思います」
 麻夜がそう言うと、桂原は急に笑顔になって、
「違えねぇな」
 と、急にしゃべり方を軽くして答える。
「じゃあ柴崎、オレとお前は夜まで待機だな。夜のほうが輝光探知に適してる」
「承知」
 そう答えると、柴崎はソファから立ち上がり、居間に向かって歩き出す。
「あれ、どこに行くんだ?」
「少し、釘をさしにな」
 桂原の問いにそう答えると、柴崎は数騎のいるであろう居間に入っていってしまう。
 その後、柴崎と数騎の間に一悶着あったのは、言うまでもないことであった。











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