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プロローグ


 はじめて抱きしめられた時、思ったんだ。
 彼女は温かくて、優しくて、柔らかくて、そしていい匂いがした。
 まるで母親にでも抱きしめてもらっているかのように、僕は安心して涙を流してしまった。
 それはどんなに心地よいことだろう。
 優しい腕の中で、自分の汚れ切った内臓一つ一つを洗浄でもされているような気分だった。
 でも、それはいつか終わってしまうことだ。 
 例えこれから先、彼女に抱きしめられることがあったとしてもいつかは離れ離れになる時が来るだろう。
 出会ったからには必ず別れが存在する。
 どんな美辞麗句で飾り立てようと、僕は彼女に出会った瞬間から、遠かれ早かれ別離するという結果が訪れることにはかわりがないのだ。
 例え、どんなに焦がれていても。
 例え、どんなに愛していても。
 例え、どんなに護り通そうとしたとしてさえ。
 彼女は僕の手から離れ、消えていってしまう。
 出会い、分かれるという必然。
 必ず失うという運命。
 どれほどの力を得ようとも、どうにもならないこの悲劇。
 僕はそう思った時、泣きたくなるほど悲しくなった。
 それでも僕は心地よくありたいと、祈るようにして……泣いた。

















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